平井 友梨
Cover and Hide
Cover…被せる、覆う、敷く、纏う
Hide…隠す、匿う
きっかけは、町中のどこにでもある小さな排水口の穴が気になって見つめた時だった。
何か敵から身を守るために、小さな動物がその排水口の中に潜り込んでいくのを想像して、
「穴があれば入りたい」という言葉を思い出した。
穴の中に入る事で、人目から逃れて安心感を得る。
他者と過ごす時の独特の気張りと制約から解放されて、暫し自分自身と向き合う。
私は子供の頃よく部屋に閉じこもり、一人で遊ぶ事が多かった。
遊び相手がいなかったわけでも、誰かと一緒が苦手だったわけでもない。
妹や友達と遊ぶ時間もあったが、必ず一人になりたい時があった。
それは今でもあまり変わらず、また、自分に限った事ではないとも考えている。
卵から孵ったヒナが成長する巣のように、芋虫が新しい姿を手に入れるための蛹のように、
あるいは自分というものが形成されていく胎内のように、
『外界との関係を一旦切る事で、もっと自分を強くできる場所・時間』を大切にしたいと思い、制作している。
そこからもう一つ派生して考えていることが『集団は、"一人"の集まり』という言葉だ。
例えば私は中学・高校で何百人もの生徒と同じ制服を来て学校に通っていたが、
決まって教師が言うのは「君達は学校の名を背負っているのだから校外で悪さをするな」
というような忠告だった。
つまりどんなに多くの生徒が勤勉で態度が良くても、ほんの数名が規則を破るだけで学校全体が世間から悪く見られるということだ。
ここでは"誰が"何をしたかは関係なく生徒一人一人の違いは忘れられ、毒が一滴混ざった水のように、集団が一固まりのイメージになっている。
私はそういう見方をなるべくしないように心がけたい。
家、学校、国、世界と規模が大きくなる時ほど、その中に生きている"一人"をまず想像する。
そうすれば統計だけで物事を俯瞰して考え、個人という存在を忘れてしまうこともない。
大きな集合体を形成しているのは、それぞれ独立した個別の命である。
この『身を隠して一人になる時の安心感』と『集団社会における個人の尊重』が
私の作品における主題である。