沖縄県立芸術大学大学院芸術文化学研究科

Read Article

琉球舞踊の女踊りにおける型 ―運動譜による分析の試み―

氏名(本籍)
大城 ナミおおしろ なみ(沖縄県)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
論文博士2
学位授与日
平成21年9月30日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
琉球舞踊の女踊りにおける型 ―運動譜による分析の試み―
ダウンロード
論文要旨および審査結果の要旨
審査委員
  • 教授 金城 厚[主査]
  • 教授 板谷 徹
  • 教授 大塚 拜子
  • 教授 島袋 君子(音楽芸術研究科)
  • 教授 大谷 紀美子(相愛大学客員教授)
  • 論文要旨
  • 英文要旨(English)
  • コメント
  • 論文審査要旨

論文要旨

現在琉球舞踊と呼ばれている舞踊には、老人踊り、若衆踊り、二才踊り、女踊り、雑踊りがある。明治以降に出現した雑踊りを除いて、老人踊り、若衆踊り、二才踊り、女踊りは冠船舞踊を出自とし、古典舞踊とされている。明治以降衰退し、第二次世界大戦後復興した古典舞踊は、1972年には県指定無形 文化財伝統舞踊となり、現在では多くの流会派が生まれるほど盛んになっている。それにともなって、琉球舞踊の「型」が多様化しているといわれることがあるが、その「型」とは何かということが、明白ではない。
本研究は琉球舞踊の「型」がどういうものであるかを、舞踊の主要素である運動に着目して、明らかにすることを目的とする。そのために本論文では女踊りの「綛掛」「伊野波節」「諸屯」「柳」「天川」「作田」の6作品を研究対象に選び、それぞれの作品から運動を取り出して、その組み立てられ方で 「型」を明らかにするという方法を提示した。

以下に結果の概要を記す。

  1. 取り出した運動に名称をつけた。
  2. 複数の運動が同時的、連続的に起こる時、その複数の運動が一つの運動のような動きを生み出すことがわかった。それを{連動塊}と名づけた。
  3. 個々の運動や{連動塊}が決まった組み立てられ方で出現することがわかった。それを【准型】と名づけた。
  4. 運動、{連動塊}、【准型】を用いて運動譜を作成した。
  5. 【准型】は振り付けられた位置により、その前の体勢に影響されるので、同じ名称になる【准型】でも運動譜で見るとまったく同じ運動の組み合わせにはならないものもある。そして、その【准型】が従来「型」と呼ばれ、伝承されてきたものであり、それは流派や個人により変更され易く、これまでの伝承の場でも変更されてきたものであることがわかった。
  6. ところが同じ名称の【准型】を運動で対応してみると、どの体勢から行われる【准型】にも共通する動きを持っていることが明らかになった。それを核運動と名づけ、【型】とした。本来はその【型】を琉球舞踊の「型」とするべきであろうと結論した。『芸術祭総覧』の中で「型は一つ」と言われている「一つ」は核運動を指していると推測した。

従来琉球舞踊の伝承の場においては型の名称を用いて指導することは少ない。本研究では型を組み立てている一つ一つの運動に名称をつけ、型にも名称をつけた。本研究で作成した運動譜は当該舞踊を記述するのに有効で、舞踊分析がしやすく、伝承継承にも有効である。また、運動譜を作成したのち、筆者は踊りの中で体の動きを意識的に捉えることが容易になった。

これらのことから本研究の方法は琉球舞踊の伝承継承や技法の研究に意義があり、さらに、琉球舞踊以外の舞踊の研究にも応用できる可能性を秘めていると考える。

今後は本研究の方法で音曲を対応させ、音楽と【型】の関係を明らかにしたい。また、今回対象としなかった作品についても運動譜を作成し、本研究で得た分析結果をもとに琉球舞踊の【型】を体系化していきたい。

英文要旨

Kata of Onna Odori in the Classical Dance of Ryukyu:
an Analysis by the Notation of Movements

Theatrical dance in present day Okinawa classified into five categories such as rojinodori (old person’s dance), wakashu odori (boy’s dance), nisai odori (man’s dance), onnaodori (woman’s dance) and zo odori (miscellaneous dance). Except for the zo odori, whichoriginated in Meiji era, other four are derived from the dance perfomed at the court of Ryukyu and designated as classical dance at present. Classical dance, once, declined since Meiji era, it, however, revived after the World War II. In 1972, it was designated as an intangible cultural asset of traditional dance by the government of the prefecture.Since then, classical dance has become popular and numerous schools have been born. It is said that kata of Ryukyuan dance has become diversified, while kata is not clearly defined.

This study defines kata of Ryukyuan dance from the point of movement, which is a crucialelement of dance. For this study, six compositions of woman’s dance: Kashikaki, Nufabushi,Shudun, Yanaji, Amakawa, and Tsikuten are selected. In order to clarify kata, movements are extracted from them and examined how they are constructed.

The procedure and results are as follows:

  1. A name is given to each movement.
  2. When some movements occur simultaneously or consecutively, they form a unit as if it is a single  movement. This is named as rendokai (linking units of movements).
  3. Individual movement or rendokai appears in a particular way of construction. This is named as jungata(combination of the units).
  4. The notation of movements is notated hierarchically by movement, rendokai and jungata.
  5. Being effected by the previous position, some jungata with the same name may have different combination of movements in the notation. Such jungata have been called as kata. It might be changed in the course of transmission.
  6. Despite of any previous position, jungata with the same name includes same movement. This is named nuclear movement and regarded as [kata]. Originally the [kata] should be called kata of Ryukyuan dance.In Geijutusai Soran it is said that ‘ there is only one kata’. The author assumes that ‘only one’ means nuclear movement.

At teaching of the Ryukyuan dance, the names of kata are rarely used. In this study, the author gave names to a movement, a linking unit and a combination of movements which constructed kata. The notation of movement is useful for describing, analyzing, and teaching the Ryukyuan dance.

The author is convinced that this study is significant for the transmission and study of technique of the Ryukyuan dance as well as other types of dance.

Applying the methodology to future studies, the author desires that the relationships between music and kata will be defined. Moreover the notation of dance of other compositions will be made to systematize the [kata]of the Ryukyuan dance.

私は約40年間、琉球舞踊の実演に携わってきました。琉舞界のもつ独特なしがらみに疑問を持っていた私は、沖縄県立芸大に琉球芸能に関する学部ができることを知り、自分のこれまでの疑問の解決ができるかも知れないと即刻応募し、その後、博士の学位を取得するまで19年間勉強する時間が持てました。有意義な時間でした。これまでの研究は文献やフィールドワークなどによるものが多く、学位論文で自分の体感する動きをテーマとする論文を書くことができたのは、本学研究科の先生方のご理解とご配慮のお陰と感謝いたしております。学位論文を書き上げたことを糧に、舞踊の動きの研究をさらに深めて行きたいと思います。

論文審査要旨

大城ナミ氏の論文は、琉球舞踊の型の構造を分析的に解明しようとした研究である。この研究において大城氏は、琉球舞踊を構成する要素を身体の各部分の動きのレベルにまで分解し、それらの運動の組み合わせによって、まとまった動作の単位を設定し、それをもとに琉球舞踊の「型」を再構成しようとした。そして、その方法によって女踊り「綛掛」「伊野波節」「諸屯」「柳」「天川」「作田」について詳細に記述した「運動譜」を作成し、それに基づいて、琉球舞踊の型の構造的本質を明らかにしようとした。

大城氏の研究の結果、実践の場で使用されている名称のついた型、例えば「女立ち」や「つき」がどのような運動の要素によって構成されているのか、またそれらが前後の運動的文脈によって構成要素が変化することなどが、具体的に示された。とくに、先行研究における舞踊作品の分節にもとづき、さらに分節された各部分を運動の要素に分解する作業を行い、「運動」〜「連動塊」〜「准型」という階層構造を示したこと、准型に共通する運動要素を「核運動」として取り出したことなどは、琉球舞踊研究に新しい方法論を提示した独自の成果として、高く評価できる。

一方で、研究が現代の伝承の構造的解明にとどまり、それらの歴史的正統性の問題が論じられていないとの意見があった。また、連続的運動と、同時的運動を区別せずに扱っている箇所や、「型」と「准型」と【型】について明確に定義しているにも関わらず、本文中にそれらの関係が曖昧な箇所が散見され、論理構成に緻密さが足りないとの指摘があった。「核運動」についての議論を深めるべきであったと惜しむ意見もあった。他に、記号や略語等が濫用され、わかりにくかったことも否めない。

もっとも、舞踊の動きには顕在化するものと、しにくいものとがあるので、実演家の間では周知のことであっても、それらを言語や図表で明示的に論ずることには大きな困難が伴う。大城氏は、自身が舞踊家であり、長年の修行と指導経験から得られた体感に依拠して、琉球舞踊の動きを詳細に記述する事に成功したことは、従来の研究者では為し得なかった最も重要な成果である。

己の感性に依拠して演ずる実演家ゆえに、実証に徹することの困難があり、実際の執筆には上述のような不備も多々指摘されたが、琉球舞踊の運動についての詳細な分析的記述とその構造化の方法論を提示したことは、琉球舞踊研究において初めての成果であるだけでなく、今後の研究の基礎となる重要な成果であり、この分野における学的貢献はきわめて大きい。とりわけ、芸術表現の実践活動とその理論研究との協同をめざした本研究科の趣旨によく叶っており、博士の学位にふさわしい研究である。

なお、表題について、学位審査委員会の意見により、副題を付することなどを指導して修正させた。

Return Top