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琉球の肖像画の研究

氏名(本籍)
平川 信幸ひらかわ のぶゆき
(沖縄)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
博17
学位授与日
平成31年3月18日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
琉球の肖像画の研究
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博士論文全体 論文要約 論文要旨および論文審査要旨
審査委員
  • 教授 小林 純子[主査]
  • 教授 森 達也
  • 准教授 金 惠信
  • 湊 信幸(東京国立博物館名誉館員)

論文要旨

琉球では国王の肖像画である御後絵から、程順則や久米島の有力者である喜久村絜聡まで、階層や地域をまたがり、幾つもの肖像画が描かれている。これらの作品は描写などの特徴が異なっているが、正面性や立体的な面貌表現、平面的な身体描写などに共通した特徴を持っている。本稿では画面を構成する図様や像主の身分から、琉球の肖像画を、御後絵(第1章から第5章)と、御後絵から派生し展開していく士族や地方の有力者層の肖像画(第6章から第8章)の2つに分けて、その特徴の考察を行った。考察により琉球の肖像画の特徴について、琉球社会の歴史的背景・文化的観点から、その独自性を明らかにした。

序章では、戦前、鎌倉芳太郎に撮影された24枚の肖像画と現存する肖像画の来歴を明らかにし、これらを分析するための基礎的な情報をまとめた。また、琉球の肖像画については、戦前から今日まで、幾つかの論考が上梓されているが、解決すべき課題が多くある。ここでは琉球の肖像画研究を進めるにあたって、先行研究の課題点を整理した。さらに、琉球芸術における肖像画研究の意義について論じた。

第1章では、御後絵の図像を考察するために、家譜などの資料よりその制作の実態をあきらかにした。御後絵は鎌倉芳太郎が撮影した写真のみでしかその図様が残されていない。そのため撮影された御後絵について、真境名安興、比嘉朝健、鎌倉芳太郎らが実際に調査を行った、当時の状況から、移動の経緯やその位置づけを確認した。

第2章では、御後絵の図像を考察するため北東アジア諸国の帝王像と比較し、共通する特徴や御後絵独自の特徴を確認した。御後絵のオリジナルが失われ、撮影された写真でしかその図様を研究出来ない以上、確認出来ることは限定的にならざる得ない。そのため、御後絵研究は実存する作品以上に多様な方法によって知見を広げていく必要がある。比較によって御後絵の図像は国王の図像、家具と道具類の図像、家臣団の図像の三つから構成されることが明らかになった。

第3章では、国王の皮弁冠・皮弁服について、国王が皮弁冠と皮弁服姿で描かれることが定着した明の国王の御後絵と清の国王御後絵の国王衣裳の形状及び装身具を比較することで、両者に表象された国王イメージの相異について論じた。

第4章では、琉球の肖像画に描かれた家臣団の図像の特徴とその意味について考察を行った。供奉する家臣の画像は、公的な場や儀礼に臨む国王の姿を強調するために描かれたものであることが分かった。

第5章では、御後絵に描かれた建築や道具類の図像について研究を進めた。また、研究を進めるにあたっては、首里城内の二ヶ所の玉座や御後絵が祀られた円覚寺など、琉球国王を象徴する場所と御後絵の図像の比較を行った。さらに、宮廷儀礼などから、御後絵に描かれた図像の考察を行い、御後絵に表された国王イメージを明らかにした。

第6章では『程順則画像』の作者について考察を行った。琉装像の『程順則画像』は、その写実性の高さから、琉球の肖像画作品を考える上で重要な作品となっている。しかし、その作者については琉球人説と中国人説の二つの説がある。本稿では、琉球人の肖像画より、描写を俯瞰し、『程順則画像』の制作者について考察を行った。『程順則画像』の制作者について考察を行うことで、中国から琉球への絵画技術の伝来について論じた。

第7章では、久米島の有力者層である『喜久村絜聡(片目地頭代)画像』の面貌表現や衣装描写について考察を行い、琉球の肖像画の特徴を明らかにした。また、本画像は琉球の肖像画のセオリーの中にありながら、久米島の有力者である像主の心情や状況を表現するため、身分や役職を示す八巻を被らない姿で描くなどの表現がなされている。

第8章では、琉球の肖像画の変遷を確認することが出来る首里士族の肖像画、現存する2点と戦前、鎌倉芳太郎に撮影された8点から、17世紀に変容していく図像について考察を行った。首里士族の肖像画は17世紀の作品から琉球王国が解体させられる19世紀までの作品や写真が残されている。考察により、首里士族の肖像画が明の冠服を着用した御後絵の影響を受けたものから、琉装の単身像で描かれるものへと変化することを明らかにした。また、19世紀末に、『翁高年(宜寿次盛安)画像』のような日常のくつろいだ姿で、子孫へのメッセージをしたためた手紙を手にした、像主の内面性や家族との繋がりを示すような作品も現れる。

終章では、第1章から第8章までの知見をまとめ、琉球の肖像画の特徴が、時代によって変化することを明らかにした。御後絵を含む琉球の肖像画は17世紀末から18世紀における琉球をとりまく国際状況と国内の改革の影響を受けて、独自の図様や描写、構図によりその様式を展開させていったものである。

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