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塑造・テラコッタ技法の研究 -日本古墳時代の吉備地方における陶棺製作方法論考-

氏名(本籍)
趙 英鍵ちょう えいけん
(中国)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
博16
学位授与日
平成30年3月16日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
塑造・テラコッタ技法の研究 -日本古墳時代の吉備地方における陶棺製作方法論考-
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博士論文全体   論文要旨および論文審査要旨
審査委員
  • 教授 平山 英樹[主査]
  • 教授 上條 文穂
  • 教授 森 達也
  • 教授 波多野 泉
  • 准教授 光本 順(岡山大学)

論文要旨

 

彫刻を製作するうえで素材・技法の探求は重要な表現要素の一つである。この観点から 本研究のテーマは、筆者の彫刻・塑造実作経験から得た知見を基に、日本古代吉備地方か ら出土する土師質亀甲形陶棺の多脚付き及び棺身分割の理由についての解明を目的とし て設定している。本論文では、土師質亀甲形陶棺の多脚付き及び棺身分割の理由は、粘 土素材の特性を知り尽くしていた当時の工人たちの知恵によるものであるとの仮説を立 て、先行研究史を踏まえながら数度の遺物実見調査及び実験考古学の手法による3 条件の 土師質亀甲形陶棺の復元比較実験結果を基に仮説を検証した論考である。

第1 章では「彫刻技法における塑造(モデリング)について」と題し、塑造の定義に ついて述べる。塑造は彫刻を製作する上での1つの技法であり、可塑性材を用いて原型ま たは本体を造形する方法であると定義される。また、塑造を製作する上での主な最終素材 である「塑像」、「テラコッタ」、「ストゥッコ」、「ブロンズ」、「脱活乾漆」につい て、それぞれの特徴をあげて説明している。さらに研究対象であるテラコッタ作品を世界 各地で見られる作品を通して比較・検証を行い、テラコッタの技法や先駆者の作品を例に 挙げて、筆者が実践している沖縄芸大での技法について述べている。また、古代の技法を 考察することで、当時の工人たちの造形思考を探りながら、筆者の創作テーマである「人 間の存在」についての思考を掘り下げてゆくと同時に、テラコッタ技法による新たな表現 形式を探求し、筆者が研究対象とする「陶棺」の復元を実践していく。

第2 章では筆者の復元陶棺のモデルである日本古墳時代の吉備地方における陶棺につ いて着目している。日本の土器芸術は独特の発展過程を経ながら、その中には様々な技術 や造形性の展開が見られる。今までの陶棺の研究史においては、陶棺の分割理由、及び多 脚付きの理由についての追究はなされていない。また、陶棺を中央で分割する理由及び多 脚付である理由は、土が持つ乾燥・焼成時の収縮特性による切れ・割れの防止を克服する 手段であったと言うことと、焼成時における熱循環の確保であったとの推論を持つに至っ た。本稿は主に日本古墳時代に岡山田熊古墳より出土した土師質亀甲形陶棺を主とし、当 時の人文的・歴史的・風土的特性等の高度な文化を検証するとともに、陶棺の分割や多脚 の理由について分析・考察し、古代のテラコッタ技法の歴史の意義を明らかにすることを 目的とする。

第3 章では陶棺分割について理論と実踐を結合して研究方法を考察し、古墳時代亀甲型 陶棺の分割方法や分割順番及び切断工具を分析し解明することを目的とする。田熊古墳陶 棺の切断順次は先に棺身を中央で分割した後に棺蓋を製作し、陶棺完成後に棺蓋と棺身の 分割をした可能性が高いが、全ての陶棺の切断順次が棺身を製作後に中央分割されるわけ ではなく、陶棺全体の完成後に分割されるものもある。これらの分割による違いを検証す ることにより製作方法にどのような影響を与えるのか、また、これまでの研究史に対して は実験考古学の立場からの検証結果を踏まえて論述する。さらに実物の陶棺の切断面には 特徴的な痕跡が見られるが、3 種類の道具を通して切断面を比較・検証した結果、陶棺切 断に使用された道具は竹製の刃物の可能性が高いと思われた。これら古墳時代の分割方法 や切断道具について検証することは古代の高度な製作技術に対し、重要かつ歴史的な意義 を持つと推測される。そのためにも完備の実物の資料に基づき実践考古学による古代の製 作方法によって、陶棺の分割順次及び切断道具についての実験・検証を行い論考する。

以上が本稿の論文要旨である。

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