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声楽技術習得における ピラティス・メソッドの有効性の研究 −呼吸と身体−

氏名(本籍)
本間 千晶ほんま ちあき
(新潟県)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
博19
学位授与日
平成31年3月18日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
声楽技術習得におけるピラティス・メソッドの有効性の研究   −呼吸と身体−
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博士論文全体  論文要旨および論文審査要旨
審査委員
  • 教授 仲嶺 伸吾[主査]
  • 教授 五郎部 俊朗
  • 教授 金城 厚
  • 准教授 山内 昌也
  • 准教授 向井 大策
  • 小濱 妙美(京都市立芸術大学 教授)

論文要旨

本研究の目的は、声楽技術習得におけるピラティス・メソッドの有効性を実践と実験を通して、検証することである。
声楽の演奏は、身体が楽器となる。そのため声楽技術習得において重要なことは基礎となる身体の使い方を体得することである。しかし、楽器である声帯は身体に内包されていて可視化できないため、身体の使い方は指導者と学習者の感覚に委ねられている。そのため、両者の間で、身体の使い方の認識に感覚的誤差が生じてしまうと、不調和が生じ、行き詰る。これを解決するための一つの方法として、指導者は身体調整法を使って学習者に身体の使い方を明確に認識させることができると考える。
声楽技術習得の基礎となるのは身体の使い方で、特に重要なのは正しい姿勢と呼吸法である。筆者は、この身体の使い方を体得するために、身体調整法の一つであるピラティス・メソッドが有効ではないかという仮説を立てた。
ピラティス・メソッドとは、J.ピラティス(1883-1967年)により考案された身体調整法で、呼吸を伴いながらエクササイズすることで日常生活により生じた姿勢の歪みを整え、しなやかな身体づくりを目指す。さらに身体内の骨格筋をイメージしながらエクササイズすることにより、身体内のイメージが明確になるため、指導者と学習者の共有が具体的になると考えられる。
本研究における検証方法は、まず学習者の主観による自己評価と声楽専門家の客観による第三者評価を用いる。この検証から、自己評価では、ピラティスのトレーニングによって身体意識が深まり、それぞれの経験段階に差異はあるものの、何らかの効果が現れると期待する。次に第三者評価では、ピラティスのトレーニングにより獲得された身体を使うことによる声の響きの改善効果を期待する。
本論は序章、終章を含め、全7章で構成されている。
第1章では、戦後の日本における声楽技術習得法の変遷を通して、本研究の必要性と歴史的意義を明確にする。さらに1970年代から現在までの身体調整法を含む声楽技術習得法の流れについて概観する。1970年以降、声楽学習者に身体の使い方への意識が高まり、様々な身体調整法が援用され始めた。これを背景として、ピラティス・メソッドを声楽技術習得に、どのように援用すべきかを明確に位置付ける。
第2章では、ピラティス・メソッドの概要について述べる。まずは、ピラティス・メソッドの考案者であるJ.ピラティスの生涯、考案者が亡くなってからのピラティス・メソッドの成立と展開、日本への導入など、ピラティス・メソッドの沿革を述べる。さらにピラティスのエクササイズ方法・内容の概要と本実験で使ったエクササイズの紹介をする。
第3章では、筆者がピラティス・メソッドの実践から得た効果を踏まえながら、声楽技術習得にピラティス・メソッドを援用するにあたり、歌唱における重要な姿勢や呼吸を中心とした身体活動を明確にする。その上で、ピラティス・メソッドが声楽技術習得にどのように援用できるかを考究する。これらによってピラティス・メソッドが声楽指導者や学習者の技術・問題改善に生かされ、実践として広がることを期待する。
第4章では、検証方法について述べる。実験は、まず14名の被験者の歌唱を録音し、その後、内8名の被験者に対し、1回45分間のピラティスのトレーニングを3ヶ月間全24回実施した。3ヶ月後に再度被験者14名の歌唱を録音した。また、ピラティスのトレーニングを実施した被験者には自己評価アンケートを実施し、録音終了後は声楽指導者に対し、録音音源聴取による第三者評価アンケートを実施した。
第5章では、実験結果を分析する。被験者は声楽初心者、初級者、中級者、上級者の4つに分類し、どの声楽段階にどのようにピラティス・メソッドが有効であるかを考察した。また、ピラティスのトレーニングをした8名と、しなかった6名の被験者において、3ヶ月間の声の響きの変化について自己評価、第三者評価、筆者の観察の3つの視点から総合的に分析した。
その結果、自己評価では「姿勢が良くなった」、「声が出しやすくなった」などで、主観的に楽に声が出せるようになるという効果があった。また、第三者評価では声楽の経験段階による効果の差異は見られたが、「響きが変わった」、「響きが良くなった」と客観的にもピラティスのトレーニング効果だと思われる声の響きに変化があったと分析できる。さらに筆者の観察では、ピラティスのトレーニングで姿勢が矯正され、楽器としての身体が整ったことで、呼吸コントロールがスムーズになり、声の響きに変化をもたらしたと考えられる。さらに身体への意識を持つことにより、身体内のイメージが明確になり、身体コントロールが容易になった被験者もいた。
以上のことから、本研究において、全ての声楽学習者ではないが、ピラティス・メソッドは声楽技術習得に有効であると結論づけられる。

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