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磨研土器の制作技法の調査・研究を通じた現代陶芸における新たな装飾技法の探究

氏名(本籍)
鈴木まこと
すずき まこと
(沖縄県)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
博29
学位授与日
令和6年3月18日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
磨研土器の制作技法の調査・研究を通じた現代陶芸における新たな装飾技法の探究
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博士論文全体
審査委員
  • 教授 山田 聡
  • 教授 森 達也
  • 教授 名護 朝和
  • 唐澤 昌宏(国立工芸館 館長)

論文要旨

本研究は「磨研土器の制作技法の調査・研究を通じた現代陶芸における新たな装飾技法の探究」をテーマとして、土器の熟覧調査や再現作品の制作などを通じて古代に発達した技術を学び、その技法・意匠を現代陶芸の制作に応用することを目的としている。そのため、土器の制作技術に関する技法実験をおこない、自身の表現に還元できるような新しい装飾表現の確立を目指した。また、現代の陶芸作家たちが土器からどのような影響を受け、どのように昇華してきたのか、現代陶芸と土器との関わりといった観点から考察している。それらを筆者自身の土器への憧れや芸術性と照らし合わせ、「現代陶芸」という分野に根差している土器文化について、技術的・思考的の両側面から考察し論述した。以上のことから、はじめに、第1章~第4章、おわりに、という章立てにて構成した。

第1章「各地の磨研土器の制作技法について」では、世界各地の磨研土器の熟覧調査を通して見出したことを、技法別に取り上げ、比較し、述べていくことで、それぞれの土器の持つ特徴についての共通点や特異性などについて理解を深めた。本論の研究対象技法である「黒陶」と「研磨」の特徴が見られる土器である中南米の「ネガティブ文様土器」、弥生時代の「丹塗磨研土器」、中国の「竜山文化の黒陶」、エジプトの「ブラックトップ」、古代エトルリアの「ブッケロ」に加え、先行研究の中で扱われた作家について理解を深めるために古代ローマで発展した「テッラ・シジッラータ」と呼ばれる低火度陶器の調査をおこなった。

第2章「土器の技法から考える新しい装飾技法の探究」では、「ネガティブ文様土器」の再現作品の制作や「暗文」の技法実験を通して、考古資料で観察できる装飾技法について技術的側面から考察をおこなった。さらに低火度焼成の器面に金彩を施すなどの新たな技法の創生について論述した。また本章では、現在の日本の陶芸分野では器体表面が黒い低火度焼成の焼物のことを一括りに「黒陶」と表現されていることについて疑問を投げかけた。単に「黒陶」といえど器面を黒くする際の工程の違いによって、得られる特徴が明らかに異なっており、黒陶作品を制作する作家たちは自身の目指す表現を探し、黒陶を制作する際の焼成方法を変えたり、意識的に使い分けたりしているはずである。そこで本章では実験と考察を通して、技法ごとに得られる特徴の違いを明確にし、黒陶技法の分類について論述した。

第3章「現代陶芸に見られる土器の影響」では、筆者自身の芸術家としての立ち位置を明確にする上で、現代陶芸の分野内で土器の技術がどのようにして活かされてきたのか、陶芸家が土器からどのような影響を受けてきたのかを現代陶芸作家の作品や、作品に対する技法的アプローチ、コンセプトなどを取り上げ、考察した。本論では土器に影響を受けた作家として、八木一夫、鈴木治、加守田章二、重松あゆみを取り上げた。八木は土器の持つ瑞々しい質感、対して鈴木はざらついた土肌の質感や炎の痕跡、加守田は装飾などのデザイン的観点、重松はテッラ・シジッラータの技術や縄文土器の装飾と構造という観点から、それぞれの作家が土器の持つ違った側面に惹かれ、影響を受けていることを明らかにした。

第4章「土器の技術と表現の自作品への展開」では、土器の再現作品の制作や新しい装飾技法の確立を目指したことによって得られた独創性などを、自身の作品についての解説を通して論じた。技法的な解説に加え、土器の技法を自身の表現として取り入れるにあたって、制作に対する造形思考について自作品を例に挙げて解説した。土器は遥か昔の言語を持たない時代からつくられ、人々の祈りや生活の営みの記録などを伝えるために装飾的な表現が取り入れられてきた。半永久的に残り続ける陶芸作品は、作家にとって自分が生きた記録を残すことである。何千年も前の土器には、時空を越え、現代の私たちに何かを訴えかけてくる力がある。そんな土器の持つ「伝える力」に憧れ、何かを物語るような表現を目指した筆者にとって、土器の表現を取り入れることは自身の創作にとって必要不可欠であると論を展開し、結論付けた。

以上のように、本論文では土器の考古学的背景や技法の調査・研究を通じて、先行研究の中で扱われた作家の制作を例に、土器が現代陶芸の表現に及ぼしてきた影響について述べ、使用する技法や素材の歴史的背景、または考古学的背景を理解することの重要性について論じた。技法研究に関しては、その技術の特徴を深く観察し、まとめることで技法の理解と分類をおこなった。また、土器の熟覧調査や再現制作を通して習得した技術を応用し、自身の制作に活かしていくことで、新たな装飾技法を発見し、現代陶芸において新たな表現に関して論考できたと考えている。

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