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首里城出土元明景徳鎮磁器の研究

氏名(本籍)
何 其楽
か きらく
(中華人民共和国)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
博31
学位授与日
令和6年9月26日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
首里城出土元明景徳鎮磁器の研究
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審査委員
  • 教授 森 達也
  • 教授 波平 八郎
  • 准教授 鈴木 耕太
  • 徳留 大輔(公益財団法人 出光美術館 学芸課長)

論文要旨

本論文の研究目的は、首里城出土の景徳鎮青花磁と中国の関連窯跡、遺跡、墓、紀年器物等との比較研究を通じて、琉球出土の景徳鎮青花磁の全体像を明確化することである。また、明代中国の朝貢国の中での琉球の地位、さらには景徳鎮明早期青花磁の起源などの問題について検討する。研究方法は、首里城出土青花磁器の徹底的な実見調査と中国出土資料の比較分析である。まず首里城出土の景徳鎮磁器を筆者自身が実見調査と写真撮影をおこなった。そして、中国と日本の研究者の先行研究を整理し、景徳鎮青花磁の研究状況およびこれまでの研究の問題点について検討を行った。編年の部分では、主に小野正敏、柴田圭子などの編年案に基づいて景徳鎮青花磁の編年を行い、最後に中国出土品と比較研究を行いながら、首里城出土の景徳鎮青花磁の特徴を時代ごとに分析した。

第一章では、上述の研究目的と研究方法について述べたのち、研究史についてまとめている。研究史では、中国と日本の代表的な研究者の重要な観点及び中国の重要な窯跡、遺跡、墓と紀年器物に関する文献を整理した。日本では、景徳鎮青花磁に対する研究は主に沖縄のグスク(城跡)の発掘調査と日本本島の各地の出土状況に集中している。編年は中国の研究者の研究より成熟しているが、中国の重要な窯跡、遺跡、墓と紀年器物に対する認識が十分ではない部分もある。

第二章では、主に日本の研究者の分類案に基づいて本論文における分類と編年を構築した。近年多くの新たな出土資料が公表されているが、その一部はこれまでの研究では取り上げられていないため、筆者は日本の研究者の分類案をもとに補足した。元青花磁の分類では、これまで日本の研究者に認知されていなかった直口碗C群と小振り外反碗Bc類を補足した。明早期青花磁の分類では、腰折碗Ab類、「金鐘碗」タイプと元様式の小振り外反碗Bc類、「官窯鶏心碗」タイプと「斗笠碗」タイプの直口碗Ca類、及び「菊弁」大振り直口碗Cc類などを補足した。明中期青花磁の分類では、大振り外反碗Ba類と腰折碗Ab類を補足した。こうした分類に基づき、明代民窯景徳鎮青花磁の編年はを、第一期:宣徳年間(1426-1435)、第二期:空白期(1436-1464)、第三期:成化~弘治年間(1465-1505)、第四期:正徳~嘉靖年間初期(1506-1530)の四期に分けた。

第三章では、首里城の各調査地区で出土した景徳鎮青花磁を系統的に整理し、第二章で提示した筆者の分類案によって分類した。そして、首里城の各時期の景徳鎮青花磁の受容状況を分析し、出土状況を以下のようにまとめた。①景徳鎮元青花磁は、下之御庭跡、二階殿、京の内など地区に集中している。②明早期青花磁は、主に京の内、二階殿、淑順門、正殿など地区に集中している。③明中期青花磁は、主に御内原、正殿、銭蔵など地区に集中している。④明後期青花磁器は、主に御内原、正殿などの地区に集中している。なお、首里城出土の景徳鎮青花磁の中で、元青花はほぼ品質の高い「イラン」タイプ元青花で、品質の低い「フィリピン」タイプ元青花は発見されない。明早期青花磁は、景徳鎮の一般的民窯で生産された製品より明らかに品質が高いが、中国の藩王府遺跡から出土した器物と比べるとやや質が下がり、龍紋と鳳紋などの官用紋様を持つ器物は出土していない。また、大罐類器物などの高品質な民窯青花磁は中国以外では琉球だけで出土している。明中期青花磁の数が最も多く、この時期の首里城の出土品は、フィリッピン発見のLena沈船の器物と比較すれば、琉球の陶磁貿易における地位が明早期より低下していたことが明らかである。明後期になると、首里城から出土した景徳鎮の青花磁器は量も質も、明早・中期青花磁器とは比べものにならないほど低下する。この時期の出土品には中国福建省漳州窯の青花磁なども発見され、他の地域で生産された磁器が景徳鎮の青花磁と競合するようになったことが推察された。

第四章では、主に各時期の代表的な器物と非常に重要な意義を持っている器物の比較研究を行い、さらに、景徳鎮明早期の民窯青花磁の起源について考察した。また、琉球の出土品から見ると、いくつか明早期青花磁の出現年代は、これまでの研究より早い可能性が高いと推定できることを指摘した。

以上のように、本論文では首里城出土の元明景徳鎮青花磁に対する研究を通じて、首里城出土の景徳鎮青花磁の全体像を初歩的に認識し、自身の研究基盤を形成することを目的として研究を行った。今後も沖縄と中国を中心に中国陶磁器の海上貿易という課題に対して全面的な整理と研究を続けていくつもりである。今回の首里城資料の整理では、本論文で焦点を当てた景徳鎮青花磁のほかに、景徳鎮白磁、紅緑彩、法華彩、三彩、瑠璃釉などの磁器の記録も作成したが、時間の関係で本論文では分析することができず、浦添城跡、今帰仁城跡、久米島の宇江城跡、具志川城跡など他のグスクの出土資料の一部も実見したが本論文の中ではあまり活用できなかった。今後、こうした資料に基づいて更なる研究を行う所存である。

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