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九世紀から十四世紀にかけての九州、南西諸島、台湾の貿易陶磁

氏名(本籍)
洪婕憶こう しょうおく(台湾)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
博35
学位授与日
令和8年3月18日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
九世紀から十四世紀にかけての九州、南西諸島、台湾の貿易陶磁
博士論文の公表
審査委員
  • 教授 森 達也
  • 教授 波平 八郎
  • 准教授 鈴木 耕太
  • 准教授 新里 亮人(熊本大学 大学院人文社会科学研究部)

博士論文要旨

中国陶磁器が世界各地に大量に輸出されるようになったのは8世紀末から9世紀にかけてである。東アジア海域の日本列島には同時期に既に少なくない中国陶磁器が輸入されていた。一方で、南西諸島ではほとんど見られなかった。九州に中国陶磁器が大量に輸入されるようになったのは11世紀半ばになってからであり、さらに南下して宮古・八重山諸島に至るまで中国陶磁器が輸入されるようになった。しかし、南西諸島の中国陶磁器は必ずしも北から輸入されたわけではない。少なくとも13世紀半ばには中国との直接貿易の痕跡が見られ、その後、朝貢貿易や中継貿易が盛んになった。だが、こうした陶磁器の流通経路や貿易の仕組みがどのように移り変わったのかについては、未だ不明な点が多い。

これまで数少ない研究者がこのテーマに注目してきたが、それらは南西諸島と日本列島との比較検討にとどまっていた。一方、隣接の台湾やその周辺の島嶼、例えば馬祖列島や澎湖諸島などは、南西諸島の南部と地理的に近く、同一の流通圏に属している可能性を疑わずにはいられない。しかしながら、これまで三つの地域を統合した研究はほとんど行われなかった。本稿では、中国陶磁が大量に輸出された9世紀から琉球朝貢貿易が始まる14世紀後半まで、東アジア海域の島々がどのような陶磁貿易に参加し、どのような流通圏に属していたのか、そして貿易陶磁が地域社会にどのような影響を与えたのかを、南西諸島、台湾及び九州の出土資料を用いて探究する。異なる空間・時間スケールの比較研究を通じて、東アジア海域における貿易活動と交流・流通圏を明らかにする。交換、交易、貿易といった異なるレベルの活動を含み、それらの関係は複雑かつ重層であることを示す。各章の内容は以下のとおりである。

第1章「序論」では、本研究の目的を説明し、研究対象の空間的・時間的範囲を定義する。これまで、東アジア海域における貿易活動に関する研究は、空間的範囲が国家の領土範囲によって限定されることがほとんどであるため、本稿では台湾を南西諸島や九州と併せて考察する。

第2章「南西諸島から出土した貿易陶磁」では、まず南西諸島の貿易陶磁研究における様々なテーマや研究アプローチを整理する。貿易陶磁に反映された外来文化(ヤマト・中国)の影響が琉球王国の成立につながった論述が主流であったが、ここでは、交易活動自体を研究の焦点とする。主要な陶磁器の流通状況を把握することに加え、本章では特殊品の分布に重点を置き、それを通じて陶磁器の流通経路に関する考察を深める。さらに、南西諸島の各島を個別の単位として捉え、島と島、島群と島群間の繋がり、物の移動といったボトムアップ的な視点から、島々における人々の主体性をより深く捉える。

第3章「台湾本島から出土した貿易陶磁」では、現時点で台湾において確認できる全ての出土陶磁を網羅し、それに基づいて分析を行う。ここで、台湾島を均一で一つの島として捉えるのではなく、各地域に分解して把握する。台湾北部は馬祖列島や宮古・八重山諸島と同じ流通圏として捉え、西海岸中部は澎湖諸島と台湾海峡を行き来する中国国内外の貿易航路と関連し、西海岸南部は東南アジアへの貿易航路と関連することを明らかにする。

第4章「馬祖列島から出土した貿易陶磁」では、中国国内輸送の沿岸航路と日本や南西諸島への貿易航路の交差点に位置する馬祖列島について論じる。11世紀中頃以降、日本各地や南西諸島に流通した白磁と、13世紀中頃以降、南西諸島のみで大量に出土した2種類の福建産粗製陶磁が、この島で大量に出土している。これにより、南西諸島における中国陶磁の北から南へ、あるいは南から北への輸入ルートがいずれも、この地と深く関わったことを示している。一方、白磁水注などの中・大型品の分布傾向が他の器種とは異なっていることから、前述の流通経路とは別に、複数の短距離の小さな流通経路が存在していたことが示唆され、両者の間には時間的な変化が反映されている可能性がある。

第5章「澎湖諸島から出土した貿易陶磁」では、「貿易」以外の事例として、いわゆる漢人移民集落の出現について、大陸南東沿岸部と台湾西海岸中部との関係を考察する。

第6章「その他の地域と沈没船」では、これまで研究者の注目を集めてきた博多遺跡群など大規模貿易拠点に立ち返り、また、タイムカプセル的性質を持つ沈没船資料と対照することによって、かつて中心ではない「周辺」と捉えられた上記の地域が実際には規模の異なる交易流通圏に属することがわかり、貿易活動の重層性がより鮮明になることが明らかになる。

第7章「結論」では、台湾と南西諸島の貿易陶磁器の状況をまとめ、中でも中・大型陶磁器の検討を含め、貿易陶磁流通圏の復元を通して、9世紀から14世紀にかけての東アジア海域における貿易活動を再構築する。

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