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沖縄発見の沈没船遺跡と中国・沖縄陶磁器の研究-水中文化遺産の研究を通じた琉球列島海域の歴史と文化の復元を目指して-

氏名(本籍)
片桐 千亜紀かたぎり ちあき(長野県)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
論文博士9
学位授与日
令和8年3月18日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
沖縄発見の沈没船遺跡と中国・沖縄陶磁器の研究-水中文化遺産の研究を通じた琉球列島海域の歴史と文化の復元を目指して-
博士論文の公表
審査委員
  • 教授 森 達也
  • 准教授 鈴木 耕太
  • 准教授 山田 浩世
  • 教授 宮城 弘樹(沖縄国際大学 総合文化学部)

博士論文要旨

本論は、沈没船遺跡に積載された陶磁器の研究によって琉球列島の海洋人類史及び島嶼文化を明らかにしようとするものである。沈没船遺跡は人類活動の一瞬の時間を閉じ込めたタイムカプセルであることから、船に積載された積荷である陶磁器の研究を行うことによって、陸上の生産地と消費地遺跡からは論ずることができない陶磁史と、そこから明らかとなる沖縄の海洋人類史について考察した。

第1章「はじめに」及び第2章「研究史・研究目的・研究方法」は、水中考古学がどのような領域の研究を可能とするのか、そして陶磁史の研究においては同時性を決定的に証明する優れた研究方法であることを示し、日本国内ではじめて悉皆的に実践された琉球列島の水中考古学の調査方法について論じた。

第3章「琉球列島における水中文化遺産の分布調査とその成果」では、沈没船遺跡の価値を明らかとするため、これまでに琉球列島で確認できた水中文化遺産の位置とその性格を把握し、体系的な分類案とその数、傾向について分析した。集成された水中文化遺産281遺跡の内、陶磁器が確認された遺跡は274遺跡と全体の97.5%にもなり、陶磁器研究に水中文化遺産は欠かすことができないことを明らかとした。本論の中心となる沈没船遺跡は、沖縄海域の21遺跡に対し、鹿児島海域では2遺跡だったことから、琉球列島における人類活動は沖縄海域に重心があったことが明らかとなった。さらに沈没船遺跡が確認された位置について分析した結果、琉球列島で交易を目的とした航海に利用された海域は東シナ海に重点が置かれていた可能性が示唆された。

第4章「古琉球の沈没船遺跡と積載された中国陶磁」では、琉球列島で確認された23ヶ所の沈没船遺跡の内、古琉球時代に焦点をあて分析した。沈没船遺跡は7ヶ所で確認され、すべての船は圧倒的な量の中国陶磁器を積載していることがわかった。時期は12世紀後半から16世紀初頭に及ぶ。古琉球時代は中国陶磁器を積載した貿易船が琉球列島海域の航行を代表する時代であったと結論できる。その中でも14世紀後半~15世紀の沈没船遺跡が多い傾向があり、琉球がアジアの海を舞台に貿易で繁栄した時期と同じくすることも明らかとなった。これらの沈没船遺跡で確認された中国陶磁器群はその時代を代表する組成標本となり、中国陶磁史の研究を大幅に進める貴重な一括資料群を得ることができた。

第5章「琉球船の構造を解き明かす鍵となるイカリ」は、船の構造を知る手がかりとなるイカリの研究成果である。古琉球から琉球王国時代の木造船は、これまでその構造がほとんどわかっていなかった。しかし、琉球列島で確認された碇石の形態的特徴を分析した結果、琉球船の碇石は中国木造船が使用していた碇石を模倣したことが明らかとなった。そこから、船体そのものの構造も中国船を模倣していた可能性があることが示唆された。このことは琉球の船造りという工芸史に新知見をもたらす。

第6章「琉球王国時代の沈没船遺跡と積載された沖縄陶器」では、近世琉球王国時代の沈没船遺跡と積載されていた沖縄陶器の組成に焦点をあてた。確認された沈没船遺跡7ヶ所の内、5遺跡はすべて沖縄陶器を主体的に積載していた。琉球列島を航行する船の積荷は中国陶磁器が主体となる時代から沖縄陶器が主体となる時代へと変わったことが明らかとなった。

これまでの沖縄陶器の編年研究は甕や摺鉢など個々の器種に特化したものであり、当該時期の全体的な組成で編年できるものではなかったが、沖縄陶器を積載した沈没船遺跡群の発見によって個々に与えられていた編年と共伴関係となる組成を明らかにできた。

第7章「西欧列強の沈没船遺跡と現代社会への影響」では、西欧の沈没船遺跡を対象とした。琉球列島では7ヶ所確認でき、その内、イギリス船が5ヶ所と西欧船の主体を占めることがわかった。年代はすべて18世紀後半から19世紀後半で、西欧列強がアジアの海の植民地化を進めた時代と符合する。また、すべてに中国陶磁器が積載されており、文献からそれぞれの船の沈没年代を明らかにできたことから、多種多様な中国陶磁器群の決定的な年代を明らかにすることができた。

第8章「海の沖縄戦」は本論最後のテーマである。沖縄の海洋史を考える上で、沖縄戦を欠かすことはできない。沖縄県では政策にも重要な影響を与えている沖縄戦を、古宇利島沖に沈んでいるアメリカ海軍駆逐艦エモンズから考察した。

第9章「結論」は、沈没船遺跡から考察される琉球列島の海域史、そして沈没船遺跡に積載されていた中国・沖縄陶磁器についてまとめる。これまで消費地遺跡から出土する多種多量な中国・沖縄陶磁器は、組成や年代が不鮮明なものもあったが、沈没船遺跡の発見により、出土した中国陶磁器、沖縄陶器の組成とその年代について検討した結果、編年的位置や組成関係を明らかにできた。今後、さらなる研究成果も見込まれる。

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