論文要旨
本研究は、「型染技法を用いた表現の研究」と題し、型染の歴史的背景と技法の特徴を分析し、筆者の創作において型染の新たな芸術表現を見出すことを目標としている。その中でも、伏せ型を用いて複数の図案を一つの画面に構成する「縁蓋技法」、そしてモチーフをシルエットのみで表す「堰出し技法」の表現に着目し、これらの技法の効果と作品への取り込み方を模索した。研究にあたり、近代までの型染の歴史的背景を調べた。それを踏まえ、縁蓋・堰出し技法を用いる3人の現代の型染作家、稲垣稔次郎、伊砂利彦、長尾紀壽の作品を取り上げ、それぞれがどのように縁蓋や堰出しを制作に取り入れ、展開していったかを調査研究した。その上で、筆者も研究制作を行い、これらの技法の特性や効果を追究した。
第1章では、日本における型染及び染色の歴史について資料を調査し、古代から現代までどのように型染が生まれ、発展してきたのかについて考察した。我が国において、文様型を使用した最古の例は、正倉院の「吹絵の紙」であり、これが型染の原型であると考えられる。その後、型染を軸に歴史を追い、江戸時代での型染の大成、そして明治初頭の化学染料の到来とそれに伴って考案された「型友禅」や「モスリン」が誕生するまでの歴史、そして芹沢銈介、稲垣稔次郎、鎌倉芳太郎のように、自身の表現として型染を選択した作家を取り上げ、型染を用いる意味や芸術性を示した。
第2章では、型絵染で重要無形文化財保持者に認定された、稲垣稔次郎(いながきとしじろう、1902年〜1963年)の作品を取り上げ、彼独自の縁蓋技法の表現について調査した。彼は縁蓋を用いて複数の型紙図案を一つの画面に構成しており、稲垣はこの技法を用いて平面作品、着物作品を手掛けていてる。彼の作品について述べるにあたり、京都国立近代美術館および金沢の国立工芸館にて熟覧調査を行った。その上で、なぜ彼がこのような構成をするに至ったのかを調べ、彼の表現の中で模様を切り替えるために用いられた縁蓋の手法とその効果について考察した。
第3章では、伊砂利彦(いさとしひこ、1924年~2010年)の型染表現について述べた。京都国立近代美術館及び伊砂工房での熟覧調査、関係者への聞き取りなどを行い、伊砂独自の表現について考察した。伊砂は縁蓋よりも「堰出し技法」において独自の様式を確立した。彼は具象的な表現をせず、モチーフを限界までデフォルメした抽象的な表現を追求している。本文では彼の「音」のシリーズの作品を主軸に論じ、また彼が発展させた堰出し技法の集大成として、「焔の習作」を取り上げ、伊砂が求めていた抽象性と堰出しの特性が融合した表現について考察した。
第4章では、長尾紀壽(ながおのりひさ、1940年〜)の型染表現について述べた。長尾独自の縁蓋表現を調べるため、本人への聞き取りをはじめ、沖縄・京都の工房での調査、京都国立近代美術館での熟覧調査を行った。長尾は稲垣の縁蓋に影響を受けて縁蓋を用いるようになったが、彼は独自に縁蓋を変化させ、縁蓋自体が上下左右に連続する構成を考案した。行った調査をもとに、長尾がどのように型の持つ連続性に着目し、縁蓋を取り入れて自身の表現を確立したか、また縁蓋自体が連続する構成にはどのような効果があるのかについて、主に沖縄へ移住した後の作品を取り上げ、長尾の型染表現の変化について述べた。
第5章では、縁蓋技法、堰出し技法を用いた筆者の実験制作について述べた。稲垣稔次郎、伊砂利彦、長尾紀壽がどのような表現を目指し、縁蓋や堰出しを作品に取り入れたのかを調べるため、筆者の型紙図案を用いて、3人の作品に見られる縁蓋・堰出しの表現を使用して試作品を制作した。縁蓋・堰出しの技法を習得するとともに、技法の特徴をより効果的に見せる構成や素材選び、墨の濃度の調節について調べ、最終目標である着物作品への技法の取り入れについて模索した。
第6章では、これまで行ってきた調査や技法研究をもとに、縁蓋技法を用いた絵羽模様の大型衣裳の制作を行った。まず制作にあたり、作品の題材となる「女性と戦争」について文献を調査し、女性たちの視点で語られる戦場の風景、匂い、そして死の描写をもとに、戦死者の鎮魂をコンセプトとして作品「Lacrimosa」を制作した。本作は縁蓋技法を用いて、大きく縫い目を跨ぎ、パターン化された3種類の連続模様を組み合わせて作品画面を構成した。糊置きでは、縁蓋の模様に合わせて型紙をずらして糊を置く手法を試み、最終的には縁蓋の線を効果的に見せながら、縫い目を跨ぐ模様の横のつながりもずれなく構成することができた。縁蓋技法を用いることで、型染の連続模様の特徴を残しつつ、絵羽模様として着物作品の中に取り入れることができ、作品意図を表す上でも、筆者にとって新たな型染表現として確立できたという結論に至った。
英文要旨
Research on Expression Using Katazome Techniques
This study, titled “Research on Expression Using Katazome Techniques,” aims to explore the potential for new artistic expressions in personal creations by analyzing the characteristics of katazome techniques, based on their historical background. Specifically, it focuses on the “Enbuta technique,” which constructs multiple designs on a single surface using reserve stencils, and the “Sekidashi technique,” which represents motifs only as silhouettes. The study examines the effects of these techniques and their incorporation into works. In this research, I investigated the historical background of katazome up to the modern era. Building on that, I examined the works of three contemporary katazome artists—Toshijiro Inagaki, Toshihiko Isa and Norihisa Nagao—who each employed the Enbuta and Sekidashi techniques in their creations, and researched how they incorporated and developed these methods. Additionally, I conducted my own creative research, pursuing the characteristics and effects of these techniques.
Chapter 1 examines the history of katazome and dyeing in Japan, analyzing how katazome emerged and evolved from ancient to modern times. The oldest example of pattern stencils in Japan is the “Fukie Paper” from the Shosoin Repository, considered the prototype of katazome. This chapter traces the history of katazome, its flourishing in the Edo period, and the introduction of chemical dyes in the early Meiji period, leading to the creation of “Kata Yuzen” and “Muslin.” It also highlights the artistic significance and meaning of stencils, drawn from the dyeing works of the Edo period.
Chapter 2 focuses on the works of Toshijiro Inagaki (1902–1963), a certified holder of Important Intangible Cultural Property in kataezome, investigating his unique use of the Enbuta technique. Inagaki constructed multiple stencil designs on a single surface using Enbuta and applied this technique to both flat works and kimono pieces. I conducted an in-depth study of his works at the National Museum of Modern Art, Kyoto, and the National Crafts Museum in Kanazawa, exploring the reasons behind his composition choices and how Enbuta contributed to his artistic expression.
Chapter 3 explores the katazome expression of Toshihiko Isa (1924–2010). Through a detailed study at the National Museum of Modern Art, Kyoto, Isa’s studio, and interviews with associates, I investigated his distinctive approach. He developed his unique style using the Sekidashi technique, avoiding figurative expression and pursuing abstract representations that push the limits of motif simplification. Focusing on his “Sound” series and the study “Flame,” I analyzed how Isa’s quest for abstraction blended with the characteristics of the Sekidashi technique.
Chapter 4 discusses the katazome expression of Norihisa Nagao (1940–), examining his unique Enbuta method through interviews, studio research in Okinawa and Kyoto, and in-depth study at the National Museum of Modern Art, Kyoto. Influenced by Inagaki’s Enbuta, Nagao developed his own method, creating continuous stencil patterns that extend horizontally and vertically. Based on my research, I analyzed how Nagao’s focus on stencil continuity influenced his work, particularly after moving to Okinawa, and examined the effects of his innovative Enbuta method.
Chapter 5 details my experimental production using the fuchibuta and sekidashi techniques. To understand how Inagaki, Isezaki, and Nagao incorporated these techniques into their works, I created experimental pieces using my stencil designs. Through this process, I explored effective compositions, material choices, and adjustments to ink density that best showcased the features of these techniques, ultimately seeking ways to incorporate them into kimono creations.
In Chapter 6, I created a large-scale costume with an “Eba pattern” using the Enbuta technique, based on my research. I first investigated “Women and War” as the theme for the work and, inspired by depictions of war from women’s perspectives—scenes of war, smells, and death—I created the piece “Lacrimosa” with the concept of a requiem for war victims. The work utilized the Enbuta technique to create a patterned composition crossing large seams, combining three types of repeating patterns. I experimented with shifting the stencil during the resist-paste process, aligning patterns across the seams while emphasizing the lines of the Enbuta. By utilizing the “Enbuta” technique, it was concluded that it is possible to incorporate continuous patterns characteristic of “katazome” into kimono designs as “Eba pattern”. This approach not only preserves the distinctiveness of katazome patterns but also allows for the expression of the artist’s intent, establishing a new form of katazome representation for the author.
論文審査結果
「型染技法を用いた表現の研究」と題された本論文は、蓋然的な型染の歴史と表現技法の調査分析を行い、新たな着想と問題意識で取り組んだ極めて意欲的なものとなっている。本論文は、伝統技法である「型染」と、伏せ型を用いて構成する「縁蓋技法」、輪郭線のないフォルムで表す「堰出し技法」に着目し、型染、縁蓋、堰出し技法を用いた現代型染作家の作品熟覧調査や関係者からの聞き取り調査を行い、その技法の特性や背景について丁寧に述べている。また、糊防染による型染表現と自身の造形理論を融合させ、新たな芸術表現に昇華させる過程を示す極めて独自的な論文と言える。
第1章では「日本の型染の歴史」と題し、先行研究の文献資料や熟覧調査等から、我が国における「型染」の起源や歴史、その変遷について論述した。奈良時代から正倉院に伝わる夾纈、﨟纈も「型染」の一種と捉え、紙を彫り透かす「人勝」、型紙で模様を表す「吹絵紙」が模様染の原型に近く、鎌倉時代より型紙と糊防染を用いる手法が見られることから、「糊防染の型染」技法が鎌倉時代に発生したと推定している。さらに、中世、近世における「型染」の進化を明らかにし、それを受けて近代の型染表現が確立した経緯を型絵染作家の芹沢銈介、鎌倉芳太郎の作品を取り上げ述べている。型染の歴史を叙述した研究が少ないなか、長板中型や江戸小紋に関する考察に不備はあるものの、通史的な歴史叙述を試みたことは評価できる。
第2章では、「型絵染」の重要無形文化財保持者に認定された稲垣稔次郎の型染表現について取り上げ、「縁蓋」とよばれる伏せ型の技法を用いて制作された平面や着物作品の熟覧調査を、京都国立近代美術館および国立工芸館にて行い、稲垣作品に見られる縁蓋技法の特徴や表現効果について述べている。稲垣が縁蓋を効果的に使用し、縁蓋技法を芸術的表現にまで高めた経緯が、作品調査や聞き取り調査から得た成果を踏まえて丹念に論述されており、従来の稲垣論に新知見を加えている。
第3章では、「堰出し技法」で独自の様式を確立させた伊砂利彦の型染表現について、京都国立近代美術館および伊砂工房での熟覧調査、関係者からの聞き取り調査を行い、伊砂作品の特徴である堰出し技法による段階的なグラデーション、抽象的なフォルムによる模様表現について取り上げ、伊砂作品の表現と考えについて述べている。「堰出し技法」が伊砂の観念的な抽象表現を実現する有効な技法であり、現代の型染技法として確立していく様子が、実作者でなければ解明できない作品分析を通して論じられている。
第4章では、長尾紀壽の型染表現について取り上げている。長尾は稲垣の「縁蓋」作品に影響を受け、自身も「縁蓋」技法を用いて作品を制作しているが、「縁蓋」を伏せ型のみとして用いるのではなく「縁蓋」に連続性を持たせ、独自の縁蓋表現を確立した。白と黒で表現する祭祀の世界、沖縄へ移住後の作品表現の変化について本人から聞き取り、沖縄、京都の工房での作品調査、京都国立近代美術館や佐喜眞美術館での熟覧調査を踏まえ、連続する「縁蓋」の構成や表現、その効果について述べている。稲垣の技法をさらに発展させた長尾の縁蓋技法を現代の染色史に位置づける、意欲的で先進的な論考になっている。
第5章では「型染・防染技法による表現研究」と題し、パネル作品で大柄模様を用いた「縁蓋・堰出し技法の表現研究」や「縁蓋・堰出し技法を用いた着物作品の制作」、「縁蓋・堰出し技法を用いた和紙への染色」を行った。その過程で墨の固着や濃度調整による染色実験、縁蓋・堰出し技法の効果的な構成、素材の選択がなされ、これらの実験を通して技法表現を習得し、連続柄を用いた型染表現に展開している。
第6章では自身の制作テーマとなる「Lacrimosa」について、「女性と戦争」を題材に戦争が女性たちの視点でどのように語られているか文献を調査し、戦争の景色、匂い、死の描写とともに、非業な死を遂げた戦死者の鎮魂をコンセプトに縁蓋技法を用いた絵羽模様による大型衣裳の制作について述べている。「Lacrimosa」を表現するにあたり、メインモチーフの女性と蘭の連続柄、指紋の連続柄、樹皮模様の細密柄を、音楽のイメージで作成された縁蓋にそれぞれ配置して画面を構成し、糊置きでは、縁蓋に合わせて型紙をずらす手法を試み、縁蓋の切り返しによる線の変化が効果的に見られ、絵羽衣裳特有の縫い目を跨ぐ模様もつながっている。高度な技術に裏打ちされ、芸術表現としての「型染」を表現している。
このように本論文は、実作者として日本の「型染」について理論研究を行い、「縁蓋」「堰出し技法」を用いた型染作品を熟覧調査し、制作者本人や関係者からも丁寧に聞き取り、表現の特徴と効果を比較分析した、非常に意欲的な論文である。「縁蓋」「堰出し技法」に着想した研究にも新たな知見がみられ、自身の研究制作において実証されている。
一方で、テーマとなる「女性と戦争」について、日本の民族衣装である和服の形態を用いることでナショナリティを持ち込むことになる、ニュートラルな平面で表現することで作者自身の表現の可能性が広がるのではないか、藤田嗣治の戦争画について解釈に偏りがあり、広く先行研究を確認する必要がある、古代の神話からナチスドイツの歴史をテーマに制作しているアンゼルム・キーファーも取り上げるべきである、といった点が審査委員から指摘された。
審査委員会は以上のことから評価を総合して、本論文は「博士論文の評価基準」に照らし、基準を十分に満たしており、学位に相応しい内容であると判断した。
作品審査結果
学位審査展覧会(会期:1月16日(木)〜1月20日(月)、場所:附属図書・芸術資料館2、3展示室)に提出された研究作品を対象に、1月18日(土)に審査を行った。作品展示は着物作品4点、平面作品9点、小作・テストピース5点を展示し、論文要旨や解説文を加えて展示発表を行っている。
審査対象となる展示作品は、第5章で解説のある7点、第6章の2点の計9点であるが、申請時の出品リストに記載のない、新作《魔女たちの鎮魂》(2025年)の展示があり、審査委員会では参考作品として扱うこととした。
第5章で論述している《女の平和―Λυσιστράτη (Lysistrata)》2022年は、喜劇作家アリストパネスの「女の平和」から着想を得て制作したパネル作品で、縁蓋を用いて2種類の連続柄を画面に構成し、堰出しによる効果的なグラデーションを試みた。同様のパネル作品で、《女の顔》(2022年)、《死の灰》(2022年)があるが、《死の灰》(2022年)で取り組んだ交差させた堰出しが効果的か、検証の余地がある。この2点の作品は、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ著の『戦争は女の顔をしていない』(岩波書店、2006年)より着想を得て制作している。これらの研究制作では、今まで見られなかった連続柄による型紙図案を作成し、縁蓋に複数の連続柄を組み合わせ、さらに堰出し技法によるグラデーション表現で制作された記念碑的なものであると考える。大柄の絵羽模様着物に縁蓋・堰出し技法を取り入れるために、《宿り樹》(2023年)と審査対象作品《朧気な世界の記憶》(2023年)のパネル作品を制作している。両方とも、着物で用いる大柄模様の型紙、縁蓋型紙と細密柄の型紙を使用している。今回の実験制作では、糊置き、水元の回数が増えることで柄と柄の境目が見やすくなったが、制作時間がかかり、生地の収縮による模様のずれが生じやすい。このことから着物へ展開するうえで方向性が定まった作品となった。縁蓋・堰出し技法を用いた着物作品《樹禮》(2023年)は、京都八坂神社境内にある御神木の朽ち木がモチーフである。成長が止まり死んだ状態の樹にも新たな命が宿り、再生する様子を表現した作品である。深紅の赤で着物の地を大胆に染め、樹は黒と白で抜きとり、紫掛かった灰色で堰出しの技法を持ち込んでいる。樹の表面に縁蓋で細密柄を施している。地色の濃度が濃く模様が見えづらいが、部分的に配置したことが功を奏している。着物は着た時に初めて作品として完成するが、作者の意図によっては平面で見た印象で完成することもある。着物作品の《樹禮》は、着姿も想像し制作された作品と言える。その研究を踏まえて、縁蓋を用いた大型着物作品《混沌と迷走》(2024年)は、ガジュマルの大柄と細密柄を組み合わせ、クラック模様を縁蓋に取り入れて制作した作品である。作品テーマは「環境問題と矛盾する不可解な状況」で、作者の得意とする大柄なガジュマル模様と刷毛で直接摺り込む彩色を用いて豊かな色彩で表現している。《境界の守》(2024年)は、本論文の第4章にて述べた長尾紀壽の作品を考察し、和紙染めテストピースの結果を踏まえ、縁蓋自体が四方に連続する表現を用いて和紙に染色した。モチーフは彼岸花で染地柄の型紙、縁蓋は亀甲紋様を用いた。染地柄は糊防染とステンシル技法に併用でき、連続する縁蓋の中で自由に配置できることが可能である。作品では縁蓋で余白をつくり、境界としての空間を演出している。第6章では、大型衣裳作品《Lacrimosa》(2024年)について論述した。本作品に関して2023年に制作した《魔女たちの怪》(2023年)、審査対象作品《女の進軍》、大型衣裳作品《Lacrimosa》のコンセプトと色彩構成を兼ねていたが、「鎮魂」のイメージから墨の黒を基調に白地を残した色彩構成にしたことで、作品に込められた意図を表すことができ、芸術表現として縁蓋が効果的であることを実証できたと言える。とくに墨を用いた表現については、松煙墨、油煙墨の綿密な研究と実験から表現者としてのモノトーンを作り出しているところが賞賛に値する。
これら学位審査展覧会における芸術表現作品9点は、学位申請論文と密接に関連しており、各章の論考と論証が整合性をもって表現研究されている作品と考える。これら9点の作品は、型染表現における技法の習熟の高さを示し、研究が十分になされた高度な完成度を持つ作品であると判断した。
芸術表現研究の全般について、東京都美術館、京都市美術館を会場とした公募展への出品を含めた制作発表で努力賞、県内芸術作品公募展にて奨励賞を受賞している。作品発表は作品の高度な完成度と共に、十分な外部評価を受けており、作品提出の要件である外部作品発表実績も認められた。
以上のことから学位審査展覧会に提出された研究作品9点において、作品内容及び芸術表現の成果として博士の学位の授与にふさわしい質と量を示す芸術表現研究であると評価し、「研究作品の評価基準」に照らして基準を満たすものと評価した。
最終試験結果
最終試験(口述)(日時:2025年1月18日13:30〜15:30、場所:首里当蔵キャンパス一般教育棟302教室)では、まず進行者が審査委員の紹介を行った。次に申請者が論文要旨並びに展覧会概要を口頭で説明した。続いて審査委員が一人ずつ提出論文や作品について質疑を行い、申請者がそれらの質問に対して回答を行った。提出論文への質疑では、テーマ設定とモチーフ意味について(第6章)、藤田嗣治の戦争画について(第6章)などの質問や提案がなされた。2巡目の質疑応答は研究制作に関して行われ、テーマ設定と民族衣装である和服について、大型衣裳の完成形態などについて質疑がなされた。質疑応答の結果、論文や作品について充分に説明が行え、質問に対しても齟齬無く回答ができた。また申請者が現状において明確に回答できない質問についても、自身の問題点や今後の課題を述べることができた点など、質疑応答全体は一定の評価ができた。
総合判定
審査委員会は、審査を実施するにあたり「沖縄県立芸術大学大学院芸術文化学研究科(後期博士課程)博士論文等審査基準」に基づいて、申請者の根路銘まり氏より提出された論文及び作品が要件を満たしているかについて審査を行った。まず、論文審査、作品審査、最終試験(口述)の成績素点はそれぞれ100点満点の85点以上を合格とすることを確認した。次に博士論文等審査基準に従って審査を行い、評価基準を満たしているかについて判定した。
その結果、論文審査及び作品審査についてそれぞれの審査委員全員一致で博士(芸術学)の学位に相応しいと判定した。また最終試験では、質疑応答によって審査を行い、申請者が当該研究に関する総合的な研究能力(制作能力を含む)を十分に有していることを確認した。
最終試験終了後に審査会議を開き、5人の委員から提出された素点を集計した結果、論文、作品および最終試験の成績が合格点を超えていた。審査委員会は申請者が提出した論文と作品が、博士の学位を授与するに相応しい内容であり、博士論文等審査基準の評価基準を満たしていることから、総合判定を「合」とした。