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琉球人が享受した大和芸能の研究-家譜資料における芸能関係記事を手がかりとして-

氏名(本籍)
石橋 佐紀子いしばし さきこ(奈良県)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
博34
学位授与日
令和8年3月18日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
琉球人が享受した大和芸能の研究-家譜資料における芸能関係記事を手がかりとして-
博士論文の公表
審査委員
  • 教授 波平 八郎
  • 准教授 鈴木 耕太
  • 教授 森 達也
  • 教授 久万田 晋
  • 教授 麻生 伸一(琉球大学大学院 人文社会科学研究科)

博士論文要旨

本論文は、琉球人が享受した大和芸能について、主に家譜資料における芸能関係資料を手がかりに、その様相を明らかにすることを目的とする。

これまで、琉球芸能、とくに組踊に関する研究では、大和芸能との関係性が多く指摘されてきたにも関わらず、実際に琉球人たちがそれらの大和芸能を知る機会がどれだけあったのかについてはあまり研究されてこなかった。そこで本論文では、近世琉球の士族たちの公的活動記録である家譜資料を用い、琉球人が享受した大和芸能について調査・研究を行った。

まず第一章では、本論文の研究目的を述べたのち、2つの視点から研究史を概観した。すなわち、①組踊と大和芸能の比較研究史、②近世琉球における大和芸能享受の研究史である。①では、これまでの研究にてさまざまな視点から組踊と大和芸能の関係が指摘されており、組踊と大和芸能に影響関係があることが明らかになりつつあること、一方で、それらの大和芸能を琉球人がどこで知り得ることができたのかにまで踏み込んで論じた研究はほとんど行われていないことを指摘した。②では、これまでの研究では主に家譜における江戸立の記録から、琉球人が江戸や薩摩にてさまざまな芸能に触れる機会があったことが明らかにされてきたこと、一方で、研究対象とされた家譜が一部のものに限られてしまっており、網羅的に調査されていない点や、享受した芸能を編年的に整理されていない点が課題であることを指摘した。その後、先行研究の成果と課題を踏まえた上で、本論文における研究方法を示した。

第二章では、琉球人と大和芸能の関わりを示す家譜資料の記事を調査、分析し、琉球人が享受した大和芸能の実態を探った。第一節では江戸立、第二節では薩摩上国、第三節では琉球国内と、場所ごとに分けて調査を行った。まず、家譜資料を調査し、琉球人が大和芸能を享受した記事を、時、場所、内容等の項目に分けて整理し、年表にまとめた。そして、年表を分析し、享受した芸能にはどのような変遷や特徴があるのかを分析した。その結果、琉球人が各地で享受していた芸能には一定の傾向があることが分かった。また、享受芸能は時代によって変化しており、その変化が起こる理由として、①芸能の流行の変化、②薩摩藩主の趣味や身内の祝い事など島津家の個人的な事情、③薩摩藩の財政状況の影響、の3点が考えられることを指摘した。

第三章では、芸能が鑑賞された「場」に着目し、「場」と芸能の関係性を考察した。ここでの「場」とは、芸能を上演する舞台や鑑賞する客席といった物理的空間=「場所」、そして、空間の使われ方や鑑賞会の次第などの環境や状況=「場面」を包括する語として用いる。第一節では江戸立、第二節では薩摩上国に分けて論述し、第二章で蒐集した家譜の記事を用い、各芸能が鑑賞された場所の詳細(建物や部屋など)を明らかにした。その後、薩摩側の資料も用いて、芸能鑑賞に使われた場所が他の場面ではどのような使われ方をしているのかを調査した。その結果、江戸立、薩摩上国の事例では、「場」によって薩摩側が見せる芸能を選別していることが分かった。

第四章では、具体的に琉球人が享受した可能性のある芸能を考察した。第二・三章の結果から、琉球人が享受していた大和芸能は、すなわち薩摩が享受していた大和芸能であるということが分かった。そこで、『鹿児島県史料旧記雑録追録』を中心とした薩摩側の資料を用い、琉球人が享受していた大和芸能を考察した。その結果、能や狂言については能楽百番に入るような基本的な演目であれば琉球人は容易に見聞きすることができた環境であったこと、歌舞伎や浄瑠璃についてもある程度享受の機会があったと考えられること、世話物より時代物が好まれた可能性があることなどを指摘した。また、実際に芸能そのものを見ることができなくても、謡本や版本から芸能文学を享受できたことを指摘した。

最後に、第五章にて、本論文の成果と課題を述べた。本研究の成果としては、①家譜における芸能関係資料を網羅的に蒐集し、それを編年的に整理・分析したこと、②編年的に整理・分析したことで、琉球人が享受した大和芸能は時代によって変化しており、その変化には薩摩藩が関係していることを明らかにしたこと、③さらに琉球人が江戸立や薩摩上国といった機会に見ることができた芸能は薩摩藩がその「場」にふさわしい芸能を選別していたことを明らかにしたこと、④具体的に琉球人が享受していた大和芸能を薩摩側の資料を用いて考察したこと、の4点があげられる。一方課題としては、家譜以外の芸能記事の調査が及ばなかったこと、薩摩側の資料が限定的であることが挙げられる。

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