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八重山舞踊の構造と体づかい ―琉球舞踊との比較から―

氏名(本籍)
和田 静香
わだ しずか
(沖縄県)
学位の種類
博士(芸術学)
学位記番号
博22
学位授与日
令和3年3月18日
学位授与の条件
学位規定第4条の2
学位論文題目
八重山舞踊の構造と体づかい ―琉球舞踊との比較から―
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博士論文全体  論文要旨および論文審査要旨
審査委員
  • 教授 仲嶺 伸吾[主査]
  • 教授 高瀬 澄子
  • 教授 比嘉 いずみ
  • 教授 波照間 永子(明治大学大学院)

論文要旨

本研究は、八重山舞踊の構造と体づかいの特徴を明らかにすることを目的とする。

八重山舞踊には、民俗芸能としての祭祀舞踊と、舞踊研究所による舞台芸能としての舞踊がある。本研究では、舞台芸能としての八重山舞踊を対象とし、中でも八重山伝統舞踊勤王流を中心とする。

八重山舞踊に関する先行研究は、芸能史や民俗誌などの研究が多く、舞踊そのものを分析した研究が見当たらない。そこで本研究では、八重山舞踊の構造と体づかいについて琉球舞踊と比較しながら考察を行った。

本論は序論と結論を除いた三章から構成される。第一章は八重山舞踊の概要、第二章は八重山舞踊の構造、第三章は八重山舞踊の体づかいである。

第一章では、本研究の対象を明確にするため、八重山舞踊の概要について述べた。八重山舞踊の歴史を述べた上で、流会派および演目について調査し、八重山舞踊の現状と実態を明らかにした。

八重山舞踊の流会派は主に勤王流と民俗舞踊研究所の二つに分けることができる。それらは別々の組織のように考えられているが、成立過程から両者が同じ流れを汲んだ同じ系統であることが明らかとなった。流会派の現状調査では、勤王流の会派が9団体、民俗舞踊研究所の会派が7団体あることや、勤王流は沖縄本島を拠点とし、民俗舞踊研究所は石垣地方を拠点する会派が多いという実態が明らかになった。演目の調査では、総数が125演目、主要演目が53演目あり、そのうち21演目がどの流会派でも演じられる共通の演目であることを導き出した。そして演目の歴史的背景から、その21演目が古典的・規範的な演目であると結論づけた。

第二章では、第一章で導き出した共通演目を対象として「出羽・中踊・入羽」の軌跡図および構成譜の作成を行い、八重山舞踊の構造の特徴を明らかにした。

まず、定義が曖昧であった「出羽・中踊・入羽」を舞踊の構成として新たに定義し直し、「出羽・中踊・入羽」の基本動線を記した軌跡図を作成した。その結果、八重山舞踊の軌跡図は「横・縦・横」と「横・縦・斜め」と「斜め・縦・斜め」の3種類であり「横・縦・横」の演目が多いことから、これが八重山舞踊の典型的な軌跡図であると結論づけた。

次に、構成譜による構造分析では、1琉球舞踊との比較分析、2共通演目の分析という二つの視点から分析を行った。1比較分析では、主題と採り物が同じ演目を選び、男踊は八重山舞踊《赤馬節》と琉球舞踊《かぎやで風》、女踊は八重山舞踊《かしかき》と琉球舞踊《かせかけ》を対象とした。《赤馬節》と《かぎやで風》では、前半部の動作や動線に共通点が多く、全体を通して見ても動線は共通していることから、全体の構造は同じと言える。《かしかき》と《かせかけ》は、演目名や採り物に共通性はあるが、舞踊構造が大きく違っていた。特に立つ動作の回数が大きく異なり、《かしかき》は句の終わり辺りに「女立ち」が見られ、数も16回あったが、《かせかけ》は節の始まりと終わりにしか見られないため4回のみだった。立つ動作は、八重山舞踊の男踊、女踊と、琉球舞踊の男踊に共通点が見られた。2共通演目の分析では、男踊《揚古見ぬ浦節》、《石垣口説》、《高那節》と女踊《上原ぬ島節》、《蔵ぬぱな節》、《石ぬ屏風節》を対象とした。音楽は八重山独特の形式や琉歌形式など様々な構造があり、囃子詞が多いというのが大きな特徴で、動作においては上肢動作が多く、その種類も多い。また「右小廻り」をする際は男踊に限らず、女踊の手踊りでも「切返し」が行われるという特徴等があった。八重山舞踊の構造は男踊と女踊に共通する部分が多いことが明らかとなった。

第三章では、八重山舞踊の体づかいについて八重山舞踊と琉球舞踊の熟練者2名を被験者とし、映像分析と聞き取り調査を行った。対象動作は「歩み」、「立つ動作」、「方向転換」、「つき足」とし、女踊では「始動」も加えて分析した。被験者の体づかいを動作素に分け、運動学用語とわざ言語(教授する場で使用する特殊な用語)で記述し、客観的検証を試みた。
その結果、八重山舞踊と琉球舞踊では、重心のかけ方とガマクの使い方に相違があり、それが体づかい全般に影響を与え、違いを生んでいることが明らかとなった。八重山舞踊は「腰を入れて」歩くとされているが、琉球舞踊はその状態からさらに「あげ入れ」という身体技法を行っている。そのため前傾姿勢となり、重心の位置も前となる。ガマクづかいにおいても八重山舞踊は縦方向のガマクづかいのみだが、琉球舞踊はそれと斜めに入れるガマクづかいがあり、琉球舞踊の女踊ではそれが全ての体づかいに影響を及ぼしていた。

本研究の結果、八重山舞踊の構造と体づかいについて、琉球舞踊との細部の相違点が明確になった。軌跡図、立つ動作や上肢動作、重心のかけ方やガマクの使い方など、それらの小さな違いの積み重ねによって八重山舞踊らしさが作り出されていると結論づける。

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