沖縄県立芸術大学は、かつて海洋国家として栄えた琉球國の由緒ある地、首里に1986年に開学して以来、今年で39年目を迎えます。本学の建学の精神は、沖縄文化が造りあげてきた個性の美と人類普遍の美を追究することにあります。これに基づき、伝統芸術の継承と発展はもとより、新たな芸術創造の可能性を広げ、地域ひいては世界の芸術文化の向上発展に寄与できる人材の育成を教育の理念に掲げています。
自由な精神を礎に人間性を表す芸術活動は、優れて人間らしい営為です。先史の洞窟画や縄文の造形が物語るように、原始太古より創造行為は人類の生活と共にありました。そして、今日の高度情報社会から国の目指すSociety 5.0/超スマート社会に向けて、今後、状況に応じて情報の意味を理解し人間の強みを発揮しなくてはならない機会が増え、人には豊かな感性や自然観、変化に対する好奇心や探求力、柔軟な発想力が求められます。また、DX、アフターコロナという大きな時代の転換期にある今、「文化、芸術、スポーツ等人間の創造力により生み出され、人々の共感を生み発展し続けてきた分野は、ますます社会に求められる」とも言われています。したがって芸術諸領域に携わる者には、今まで以上に社会的役割が期待されると同時に、責任ある場面も増してくることでしょう。
本学は、そのような次代を担う豊かな人間性と社会性、国際的視野を備えた芸術分野の専門家として、幅広く社会で活躍できる人材の育成を念頭に、個性の伸長を期して少人数教育を中心に学修者本位の教育を行ってまいります。その中で、芸術を志す人に求められる多様な価値観への理解と、多角的な視点の獲得を共に目指します。
これから社会のデジタルシフトは不可逆的に加速し、世界の平準化は進むばかりです。だからこそ、自らの拠って立つ文化を認識し、芸術の多様性、独創性の源泉である先入観に囚われない批評的精神を、生涯を通して更新し続けたいものです。
世界的な遺跡が散在するこの美しい南の島には、大交易時代から現代に至るまで異文化を受容し個性ある優れた文化芸術を創造してきた歴史と、都市部にあっても大自然の変化を間近に感じることができる得がたい環境があります。この沖縄の歴史と環境は自ずと、芸術と共に人生を歩んで行くのに必要な柔軟で強かな精神を育んでくれるに違いありません。
沖縄県立芸術大学長
波多野 泉